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2016/09/09
産後の猫

 芸術の秋である。突然ながら、朝倉文夫の猫シリーズ作品群は皆さんもご存知のことと思うが、このほどまことに珍事が起きた。
 というのは、わが家には少なからず朝倉の作品があって、商売柄、遠来の旅行者に楽しんでもらってきた歴史がある。先代たちの蒐集もあるが、私の手によるものもある。実は、そのうちのひとつに『産後の猫』というお馴染みの作品があって、寮の壁に棚を拵えて置いていた。雨ざらしなのだが、外来者たちはちょっと見上げた所に猫がいるから、それなりに注目を集めていたのである。
 さて。もう半年前、うわさを聞きつけたテレビ局のスタッフが訪れた。あの猫を下して見せてくれというのである。気を使うような作品でもないと私はこどもたちに話していたから、長男はスタッフの要望に応えてその猫を預けたという。その作品は作者のサインがある箱(共箱という)もなければ、ブロンズにしては軽いし粗雑な仕上がりに見えたから、私自身二度抜き(本物にもう一度石膏をかぶせて作ったもの)の品物だろうと判断して、だから少々手荒に扱ってもいいだろうと考えていたのである。案の定、ブロンズにはありえない錆が全体に付着していたのであった。
 ところで。そのスタッフが猫を持ち込んだ先は、何と『開運!なんでも鑑定団』であった。まあ朝倉先生はわが旧制竹田中学校で学んだわけだし、その猫を話題にして竹田のことがPRされれば全国的な話題にもなるだろうと軽く考えた。
 しかし、である。何か月経っても返事がない。没になったんだろうと長男も平気な顔でいたのだが、1か月ほど前、東京のスタジオに来てほしいと連絡が入ったという。
 しかして、長男はスタジオで司会の今田さんらと鑑定に立ち会うことになる。
 猫が持ち出されてから4か月ほど経っていたし、スタジオ入りする時期も正確に聞かされていなかったから、長男から突然に「いまスタジオにいる。大変なことになった!」とメールが入った時には、さすがに私も慌てた。
何がどう大変だったのか気になって返信するのだけれど、長男からの連絡はないまま日が変わった。
 そして一昨日、ついに彼は東京から帰ってきた。家人も気になっていて一緒にくわしく聞こうとするのだけれど、よほどショックが大きかったのか、何にもしゃべらない。
 うむ。こうなれば放映される9月27日の夜9時を待つしかないか。しかし、この前後私は一人東京で試練の中にあるはずだ。さて。喜ぶことになるのか、悲しむことになるのか。
 産後の猫ならず、術後の老人はどんな表情を準備すればいいのだろうかと、いまから気をもんでいるしだいである。

 

運命の時を待つ「産後の猫」 

 

【2016/09/09】 産後の猫